大陽がおもしろい理由
【12月12日】
何が一番刺さったか?って藤川球児のこの言葉である。「まだ、野手に関しては出てきていないので」-。先の新人選手入団会見で指揮官に聞きたかったのは独立リーガーの自主性だ。
独立リーグ出身選手の自主性のレベルは「高い」と球児は言い切った。しかし、球児いわく惜しまれるのは「満足」レベルの設定を例えば育成選手なら支配下登録に置いてしまうこと。もっといえば、中にはNPBの一員になれたことで満悦する選手がいること。だから「満足しない」胆力を「持ち続けなければいけない」と言うのだ。
独立リーガーの「成功実例」として指揮官が名を挙げたのが、石井大智。ファイティングドッグス出身右腕の躍進は紹介するまでもないが、彼の経歴をおさらいすれば、20年ドラフトの8巡目…支配下でいえば、その年の最下位指名である。ドラ8や育成選手の成功はそれはもうスカウトの慧眼にあらためて敬服するわけだが、では、なぜ石井は「成功実例」になれたのか。
まさに球児が語った通り、彼は「どこまでいっても満足しない」選手だから…というのが僕の取材の結論だ。
実は今週、石井とじっくり話をする機会があった。そこで「成功とは?」という難しいテーマを振ったのだが、彼は自分が「成功している」とは言わなかったし、満足の値は「設定するものでもないような…」と語っていた。
石井の来シーズン年俸は推定8200万円。そこで冒頭のコメントだが、球児は、つまり、独立リーグ出身で阪神にもこれくらい稼ぐ野手が出てきてほしい思いがある。
前回の続きを書けば、その可能性を僕が勝手に感じるのが、富山GRNサンダーバーズからドラフト5位で入団した佐野大陽。彼の担当スカウト筒井和也が「あいつはおもしろいですよ」と言うので聞いてみれば、なるほど、そうかもしれない。佐野の本職はショートだが、可能性を限定しないために筒井は本人に確かめたという。
セカンド、サードも守れるんだ?
それなら、外野は?
佐野「できます」
じゃ、キャッチャーは?
佐野「できます」
プロの捕手は150キロ超の速球も動く球も受けなきゃダメだよ?
佐野「できます。高校最後の夏はチームにキャッチャーがいなくて僕が背番号2でした」
じゃ、見せてくれる?
プロで通用する云々よりも、筒井は佐野の返答の「本気度」を確かめるために、実際にシートノックで捕手をやってもらった日があったという。それが…上手かった。ブルペンを見ても、凄く上手かったそうだ。もちろん阪神では本職で勝負する。が、究極のサバイバルに身を投じれば、どこでも食ってやるというくらいの熱情がなければ食われる世界。練習姿勢や熱量を見ても「自主性」という視点でいえば「彼はすごく高いです」と筒井は言う。野手で「出てくる」匂いがする独立リーガー。佐野大陽に「成功とは?」をいつか聞いてみたい。=敬称略=