社会人「首位打者」に聞く
【1月10日】
藤浪晋太郎のインスタが「エモい」と、野球ファンの界隈がざわついていた。年明け4日、ストーリーズに投稿された動画は同級生とのキャッチボール。その相手は北條史也だった。
タイトルは「地元のツレと」。ともに大阪堺の生まれだから、間違いではないけれど、「ツレ」って……。
北條といえば、昨秋の安芸キャンプを電撃訪問し、古巣の面々と旧交を温めていたが、彼が阪神を退団してはや1年。現在は三菱重工Westでプレーし、瑞々しさを取り戻している。
北條の躍動で印象深かったのは昨夏の都市対抗、トヨタ戦。前回チャンピオンの連覇を阻んだ本塁打、5打点は圧巻だった。アマ野球に目がない僕が昨年唯一ナマ観戦したのがこの試合だったが、実は、このときのお目当ては北條のほかにもいた。
対戦相手トヨタ自動車の内野手、佐藤勇基である。トヨタといえば、同大会限りで「ミスター社会人野球」と呼ばれた佐竹功年が引退を表明。40歳の花道を飾ろうと、チーム一丸連覇へ邁進したが、北條に野望を砕かれ、佐藤勇は悔しがっていた。なぜ、彼を見たかったか?そりゃ、攻守ともに非凡だから。早大-トヨタを経てプロへ進まなかった佐竹がそうだったように、中京大中京-法政-トヨタと歩んだ佐藤も一昨年プロへの夢に区切りをつけ、次代の「ミスター」道を歩む。
昨年11月、トヨタは都市対抗の雪辱を果たすかのように、日本選手権で優勝を果たした。立役者は打率・563で首位打者を獲得した佐藤勇。年間ベストナインにも輝いた彼にあらためて話を聞く機会があった。
「プロへの夢」に一区切りつけたときの、率直な気持ちはどんなものだったのか。また、今、社会人でプレーする上で最上のモチベーションとは?
「プロに行けなかったのは、自分の実力が足りなかったからですし、縁もなかったと思います。ですが、プロに行けなかった悔しさはあるので、社会人で活躍してプロで活躍する同期や友人に負けないように頑張ろうと思ってやっています。今現在のモチベーションは、1年でも長く野球をすること。職場や応援してくれる人が喜んでくれるような結果を出すことです」
プロで活躍する内野手でいえば佐藤勇の世代は華やかで、佐藤輝明、牧秀悟、矢野雅哉と同級生の26歳である。 ドラフトは縁-。昨冬、阪神監督の藤川球児はそんな趣旨の話をした。長くプロ野球を取材すれば頷ける。誤解を恐れず書けば、プロのプレーヤーすべてが至高とは思わない。どんなカテゴリーであろうと、いいものはいい。スーパーな人材もいる。高校、大学、社会人…アマで現役を終えた選手の中にもプロで通用したであろう選手はいる。が、成長速度、その世代の需要、タイミング…。運命のイタズラによってNPBとは縁がなかった才能がもう一つの檜舞台で輝いている。
この日、都内で行われたNPB新人研修会の様子を聞いて考えたこと。それは、最高峰でプレーする権利を得た良縁をどうか大切に…。=敬称略=