44年の眠りから目覚め…よみがえった“幻”のデゴイチ
“デゴイチ”の愛称で親しまれ、日本のSLの代名詞でもあるD51形蒸気機関車。その827号機は73年に廃車になってから、人目につくこともなくひっそりと眠り続けてきた“幻のデゴイチ”だ。44年ぶりの雄姿を確かめに、和歌山県は有田川町「有田川鉄道公園」を訪れた。
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「ヴォーーーッ!」“有田みかんのふるさと”に汽笛がこだました。前照灯を誇らしげに照らしながら、D51-827号機が公園敷地内の線路をゆっくりと、ゆっくりと動きだした。
全長約20メートル、全高約4メートル、総重量約126トンの黒光りに輝く車体はド迫力モノだ。片側4軸の動輪やシリンダーにもたっぷり油が染みこみ、手入れが行き届いている。
このデゴイチ、蒸気ではなく炭水車に積まれたコンプレッサーによる圧縮空気で動く。煙突からは煙が出ているが、「スモークメーカーから出してる演出です」と所有者の(株)アチハ(本社・大阪市)の阿知波孝明社長が“秘密”を明かした。
1943(昭和18)年に国鉄浜松工場で製造された827号機。主に中津川機関区(岐阜県)に所属し中央西線で活躍した。73年に廃車後は愛知県の個人の愛好家に引き取られ、以来44年間、四方を囲った倉庫内で保管されていた。
その“幻のデゴイチ”を昨年末に譲り受けたいと申し出たのが、鉄道車両輸送のエキスパートであるアチハだった。アチハと縁のあった有田川鉄道公園内で走らせることが決まり、4月18日に愛知県から搬送され、6月25日にはテスト走行が行われた。
阿知波社長によれば石炭を使った本物の蒸気で本線を走らせるには、数億円以上の経費や各方面との複雑な手続きが必要だという。この827号機の整備費用は約1500万円。「蒸気を使って走らせるのに比べれば安いものです」と阿知波社長は笑う。また、短期間で整備できた理由に、屋内で保存されていたことから状態がとてもよかったこともあげていた。
「子どもたちや後世にSLの素晴らしさを伝えていきたいんです。火を使ってないから、運転席に乗せてあげることも可能ですしね」と阿知波社長。この有田川鉄道公園を“ホームグラウンド”に、各地へのレンタル走行なども視野に入れているという。
夏休みには乗車体験や運転体験も始まる。鉄道公園・広報担当の梅本泰彦さん(有田川町役場)も「家族連れでぜひ会いに来て欲しい」と、“デゴイチ効果”を期待する。
「プシューッ!」。突然、ブレーキ弁から吐き出された空気音にたじろいだ。間違いない。このSLは生きている。この夏の和歌山、パンダもいいがデゴイチもオススメです。
◆アクセス JRきのくに線・藤並駅から無料巡回バスで約20分。自動車なら阪和自動車道有田ICから約10分。
◆営業時間 10~17時。休館日は毎週水・木曜と、年末年始
◆鉄道交流館入館料 高校生以上200円、小学生以上100円。
◆鉄道ジオラマ利用料 1路線・50分間で平日500円、休日600円。車両付きのショートタイムは15分300円。
◆住所・問い合わせ 和歌山県有田郡有田川町徳田124の1。TEL0737・52・8710