大江祐輔助手が取り組む「恩返し」 馬業界の門戸拡大へ “一歩”を踏み出す手伝い
競馬記者として栗東トレセンで取材をするようになって約1年2カ月が経過。レースを外から見ていただけでは分からなかったことがたくさんあった。一番衝撃を受けたのは、1頭に携わる人が思っていたよりもはるかに多いということ。調教師や騎手、日頃馬の手入れや世話をする厩務員、調教にまたがる調教助手。その他にも獣医師や装蹄師、カイバを調整するフィードマン、牧場スタッフと、1頭が生まれてレースに無事出走するまでの道のりには、たくさんの人の支えが存在していることを実感する。
ただ、その業務内容の特殊性から、実際にどのような仕事をしているのか、どんな進路をたどるべきなのか、ということを簡単に想像できない世界であることも確か。興味があっても、足を踏み入れることができない人も多いのではないか。
栗東トレセンの友道厩舎で攻専調教助手を務めている大江祐輔さんは、「この業界の間口を少しでも広くできたら」と、馬に関わる仕事に興味を持つ人たちが、その“一歩”を踏み出すための手伝いをしている。自身は実家が生産牧場を経営しており、札幌光星高校、日本大学では馬術部に所属して研さんを積んだが、「興味はあるけど、どういうふうに生活して、どんな進路を進めばいいかを想像できず、就職の選択肢から消してしまう人が多い」と、挑戦する前に可能性を諦めてしまうことを残念がる。
2006年頃から身近な人の馬業界への就職相談を受け、牧場での就職や海外への渡航を支援。ただ、5年前あたりから相談を受けることはかなり減ったという。「若い人で馬業界を志望する人がかなり減っていて…。業界の方々にたくさんお世話になったので、次の人へつないで力になれないかなと。恩返しがしたいという思いです」。
日本調教師会の関西本部労務課に勤めている三河洋佑さんによると、「毎年厩務員課程では約60人の募集をするのですが、最近の応募数は100~110人くらいですかね。昔に比べるとかなり減っています」とのこと。そこで、大江助手は3年前から馬術部に所属する高校生や大学生をメインに活動を本格化。各地で行われる乗馬大会に赴き、競技終了後に馬に関わる仕事についての説明会を行ってきた。
6月4日に奈良県天理市の乗馬クラブ『クレインオリンピックパーク』で開催されたインターハイの近畿地区予選。そこで説明会を行うと聞き、その様子を取材させていただいた。全国各地の乗馬大会でJRAの厩舎スタッフについての宣伝を行っている調教師会の三河さんも一緒だ。閉会式後に行われた説明会。大江助手は「僕は栗東トレセンで助手として働いているけど、馬業界と言っても養老牧場、生産牧場、乗馬クラブ、トレセンスタッフ、ジョッキーとさまざまな道があります。トレセンでの働き方が合っている人、牧場の方が好きな人など、人それぞれだと思いますが、みんなと業界を盛り上げていきたいなと思っています」と意気込んでいた。
説明終了後に一人の生徒が大江助手のもとへ駆け寄り、話を聞く姿があった。「トレセンで助手の仕事をしたいと思っているけど、どういう進路をたどるべきなのか分からない、と。直接話をする機会がなければ、興味を持ってもらっても、なかなか疑問は解決しないですからね。こうやって顔を合わせて、直接話をすることが大切だと思うんです」と対話の必要性を実感。また、「去年よりも“馬業界に行きたい”とはっきり志望する人が増えているように思いました。こうやって活動を続けていることの手応えを感じています」と大江助手。積み重ねてきたことが、着実に実を結んでいるようだ。
昨年の11月1~6日にかけて、兵庫県三木市の三木ホースランドパークで行われた「全日本学生馬術大会」の会場でも説明会を行った。実演するために木馬を持参し、ゲストとして元トップジョッキーの福永祐一調教師も参加。100人以上の学生が熱心に耳を傾けていた。今年は10月27日~11月3日に馬事公苑で同大会が開催されるが、この期間中にも説明会をする計画が進められている。「今年もゲストとしてジョッキー、活躍馬に携わった現役トレセンスタッフ、オリンピック馬術選手から協力の承諾を得ており、どのように盛り上げていくか思案中です」とのことだ。
「一人一人のビジョンに対して、その人が少しでもいいステップを踏むことができるようにお手伝いさせていただきたい」。“知る”というのは可能性を広げるためにとても貴重なもの。業界の明るい未来のために、これからもできる限りのサポートを続けていく。(デイリースポーツ・小田穂乃実)
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