高倉健、中尾彬まで演じた金田一耕助
2014年2月18日
びっくりしたのは61年にあの高倉健が1作だけ演じていることだ。正史の代表作『悪魔の手毬唄』なのだが、これが原作と大違い。後日談によると、脚本家は原作を読まずにイメージだけで書き上げたという。実は石坂・金田一が登場するまでの金田一映画は、そのほとんどが原作と犯人が違うものだったという。正史は「小説と映画は別」と割り切ったおおらかな?スタンスだったといえる。
原作に充実だったことが逆に衝撃的だった石坂・金田一だが、彼が登場する前年の75年にも映画化された作品があった。『本陣殺人事件』なのだが、その金田一役に抜てきされたのが若かりし中尾彬である。今ではこわもてのイメージがある中尾彬だが、ちょっと知的でシャイな探偵を演じている。これはレンタルビデオ店にも並べられているので、ぜひお薦めしたい。小説の『本陣殺人事件』は金田一のデビュー事件であり、時代設定は戦前。しかし、映画では低予算で作られたため現代版になっている。だが予算上の都合からか、謎解きの重要なカギを握るはずの水車があまりオモテに出てこない。さらに、現代の感覚では考えられない殺人動機で、これを現代風に演出するのには多少無理があった。ただ、ジーパンを履いたヒッピー風の金田一耕助を、あの中尾彬が演じたというのがなかなか興味深いではないか。
石坂・金田一の登場により、原作に近い金田一耕助像ができあがったわけだが、それ以後はさまざまな俳優が演じている。西田敏行、中井貴一、片岡鶴太郎…。 しかし、石坂・金田一が圧倒的な存在感を示し、おどろおどろしい横溝ワールドを忠実に表現した市川崑監督による作品群が、最も完成度の高い金田一像になったことは誰も否定することはできないだろう。
19日、BSプレミアムで午後1時から石坂・金田一による『犬神家の一族』が、26日には『悪魔の手毬唄』がオンエアされる。ともに約40年前の作品だが、まるで古くささを感じさせないのは原作を忠実に映像化したからにほかならない。興味のある方はぜひご覧いただきたい。
ちなみに正史が設定した金田一耕助の年齢とは…。1902年生まれの本人から11歳年下ということになっているので、今年で101歳になるはずである。名探偵よ、永遠あれ。
(デイリースポーツ・坂元昭夫)