小田穂乃実の実になる話⑯ゲート試験ってな~に?
レースの重要なファクターの一つである「ゲート」。どんなに能力の高い馬でも、ゲートでのミスが命取りになることも…。
馬はもともと広大な場所を走り回って暮らしてきた動物なので、狭いゲートに最初は戸惑ってしまう子も。しかし、レースに出走するためには、「ゲート試験」に合格しなければいけません。一体どのようにゲートに慣れ、練習を進めていくのでしょうか?たくさんの方にいろいろなお話を聞かせていただきました。
まず、矢作厩舎に所属されている福岡五大調教助手に、ゲート試験とは一体どのようなものなのか聞かせていただきました。福岡さんはオークス4着のラヴェルや、阪神JFに出走予定のドナベティを担当されている方です。
「ゲート試験では2回ゲートから出すのですが、駐立、真っすぐ走れるかどうか、スピード、中でジッとできるか、タイム、などいろいろな面から審査員の方が審査します」。ただ出ればいいというわけではなく、さまざまな要素から審査されるのですね。「あまりにもゲートの中で暴れて危なかったり、おとなしくなるように縛ってみたりしても、馬が納得できず、デビューできないこともあります」。ゲートは競走馬のレース人生にも大きく関わってくるようです。
ゲート試験の練習や、そこに向かうまでの過程は馬や厩舎によってそれぞれ異なるらしく、「ある程度牧場で練習してくる馬がいれば、栗東トレセンに来てから一から立ち上げていく馬もいますね。牧場でゲート練習をやり過ぎて、トレセンに来た時には苦しい状態でなかなかゲートに寄りつこうとしない馬も。慣らしていく段階で、ゲートを出すと、暴れたり、一回できたのにできなくなったりするのはよくあるパターンですね。特に牝馬の場合は、牡馬よりもへそを曲げてしまうことが多いです。一度嫌になってしまうと2、3カ月かかってしまう馬もいますね」。それぞれの馬に合った、慎重な向き合い方が求められるようです。
ラヴェルも最初はゲートに不安のあった一頭。「ゲート練習が進んでいく段階で嫌気が差して、入れられたら嫌なことをされるって思って寄りつきが悪くなってしまいましたね。中では悪いことをすることはなかったです」と当時を振り返ります。「時間をかけて馬自身に納得してもらえるように、練習を重ねました。音が怖かったので、やみくもにすると、嫌なイメージばかりついてやらなくなってしまうので、悪いイメージばかりつけ過ぎないように。そのあんばいがとても難しい。厩舎や乗り手のさじ加減も大切になってきますよね」と根気強く向き合い続けました。
「強引にゲートを出してできるようになる馬もいるし、少しずつ進めていく馬もいます。それでも嫌気が差す馬もいる。個体差があるので、正解がないものですね」。それぞれに合う方法を模索して、正しく導いていかなければなりません。
そして、ゲートが速い馬、遅い馬にもいろいろなパターンがあるらしく、「ゲート内で落ち着き過ぎると出ないこともありますね。レース前のゲートの中ではどの馬もある程度極限状態です。そんな中で、ぼけーっとしてたらやっぱり出遅れてしまいますよね。逆に、怖がりの馬は、1秒でも速く出よう出ようと中で苦しがって、あいた瞬間にパッと速く出ることもありますね。昔のラヴェルみたいに、ゲートへの寄り付きは悪いけど、入ってしまえばゲートがめっちゃ速い馬も……。身体的な面から言うと、ゲートを出る1歩目はぐっと踏み込むんですが、トモの踏み込みが弱い馬はゲートが遅いこともありますね」。精神的な部分と身体面、どちらもかみ合っていないといけないようです。
「僕たちは実際にレースに乗るわけではないので、とにかくゲートを嫌にならないようにという部分を最も意識していますね。ゲートはとてもセンシティブなことなので、馬の精神的な部分を支えられるよう、自分自身も冷静に落ち着いて向き合っています」と、福岡さんは説明します。
渡辺厩舎所属で、これまでたくさんの馬のゲート試験に騎乗してきた渡辺祐二調教助手は「とにかくゲートの中では、いじくりまわさず、落ち着かせられるように気を付けているなあ。怖がりな馬ほど、しつこくせず、速く試験を受けた方がいいね」と、いかに慎重に取り組んでいるかについて話してくれました。
では、ジョッキーはゲートにどのような意識を持っているのでしょうか。現在は、梅田厩舎の調教助手をされている、元ジョッキーの前原(旧姓・西原)玲奈さんにお話を聞かせていただきました。「ゲートが上手な子は、背中でなんとなく分かりますね。それぞれの馬の性格によって、アプローチの仕方は変わってきます。ただ、新馬戦の時は、比較的に1歩目、2歩目は積極的に出していきます。スローになることが多いですし、しっかりハミを取って走ることを覚えてもらいたいですしね」と、デビュー戦ではゲートも含め、教えることがたくさんあります。
「ゲートを出ることに関しては、やはりセンスが大きく関わってきますが、一度競馬で走って本番に強くなる馬もいますね。一番苦労するのは、練習の時はなんの癖もなくスッと出るのに、競馬に行って突然癖を出す子ですね……」。練習からは予想していなかった課題が本番で見つかることもあるのですね。そして、デビュー時は特にゲートに問題がなかった馬が、競馬に使われて古馬になってから癖を出す馬もいるそうです。そうすると、新馬の時よりもパワーアップしているので、暴れてしまうと特に大変なのだとか。
元ジョッキーで今は調教師の渡辺薫彦先生は、「重心移動や、手綱の長さとかいろいろ考えることはあるね。基本的に出る時は後ろ重心だった。あとは、右に向けたり、左に向けたりして、リラックスできるようにしたりも。でも、とにかく余計なことはしないように」と、ゲートを出る前の準備はやはりかなり大切だそうです。
障害レースはどうなのかな?と気になり、今は渡辺厩舎の調教助手をされていて、元々障害レースを中心に活躍されていた佐久間寛調教助手に尋ねてみると、「障害レースでは、やっぱりスタミナがとても重要なので、ゲートはしっかり出して行きますね。あとから、前に行こうとする体力のロスが極力ないようにします。あとは、ダートのレースや気が入っていて歩様が硬い馬は、1歩目や2歩目でつまずきやすいので、重心を後ろにすることを心掛けていましたね」と教えてくださいました。「でも、とにかく人間が緊張しないのが一番。ゲートの中での人間の緊張が馬にも伝わってしまいますからね」。
ゲート試験に合格し、レースで無事に出走することができるまでには、たくさんの努力や工夫があります。これまで以上にレースでのゲートの重要性がよく分かりました。
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