『二岡をコンバート』 鳥谷の思いを逆なでした巨人の約束

阪神入りを表明し、筆者(左)と握手する鳥谷=2003年11月8日
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 5月29日に連続出場記録が途切れてしまった阪神の鳥谷敬内野手だが、プロ野球歴代2位の1939試合連続出場は偉大な記録であることは間違いない。アマチュア時代は早大でリーグを代表する打者として活躍。2003年度のドラフトの目玉として8球団が自由獲得枠での争奪戦を繰り広げた。最終的に阪神が獲得に成功したが、担当として獲得に尽力したのが現在AbemaTV東京六大学野球中継の解説を担当している元阪神の菊地敏幸スカウトだった。

  ◇  ◇

 連続試合出場記録が途切れた瞬間は、さみしい終わり方だなと思いました。ケガで出られないわけではなく、元気だったわけだし。本人は金本監督と話をしていて、納得してのことだろうし、鳥谷自身も記録にこだわってはいなかったとは思います。ただ、鳥谷の担当だった私個人としては複雑な気持ちです。

 ただ1939試合連続出場というのは、決して色あせないし、改めてすごい選手だと実感する記録です。そんな鳥谷を追いかけるようになったのは早大の2年生の時でした。1年上にいた和田(ソフトバンク)をマークしていたことで早大の試合や練習は見ていました。しかし、その時の鳥谷はお世辞にも華があるタイプではなかったです。

 ただ試合では安打を確実に1、2本は放ち、守備でもミスをしない。本塁打を量産するわけではないが、センターを中心に高いミート率で打ち返す。積極的に盗塁もする。しかもポジションはショート。阪神には当時、藤本がショートにいましたが、不動のショートは長年の課題でした。この悩みは他球団も同じで、8球団の争奪戦になりましたが、みんな不動のショートを欲しがっていました。

 鳥谷に惚れたのは、実力はもちろんですが、人間性や野球への意識です。1年下にいた早大の松尾マネジャーと親しくなった私は、鳥谷のことをいろいろ聞きました。普段から新聞やテレビは見ないとか、夜遅くまで練習に没頭しているとか。そして、これは「鉄人・鳥谷」につながる話ですが、夜中の午前2時、3時に鳥谷が一人お風呂場にいて、熱いお風呂に入った後に冷たいシャワー浴びるというのを交互にし、体のケアをしていたというのです。

 疲労を軽減する冷温交代浴はプロの世界では設備が整っているので普通ですが、大学の合宿所でやるのは凄いなと。それだけ自分の体に対し、自己管理がしっかりしているという証明です。こいつはプロでも成功するはずだと、確信しました。

 球団からの絶対に獲れというプレッシャーは感じていました。争奪戦は激しく、最終的には巨人との一騎打ちになりました。後日、鳥谷から聞いた話ですが、巨人は鳥谷に「二岡を移して、ショートを空けているから」と話していたそうです。当時バリバリのショートのレギュラーだった二岡をコンバートさせるというのだから、よほど鳥谷を欲しかったんでしょうね。ただ、これは鳥谷の思いを逆なでしたようで「それは違うでしょう」と言ってました。鳥谷としては自分でポジションはつかむものと強く思っていたようです。

 結果的に鳥谷は阪神を選んでくれました。だがその時はホッとしただけで、うれしいという思いはありませんでした。これからがスタートだなと。選手としてどれだけ活躍するかが、スカウトの評価につながります。もし全く成績を残せなかったら、担当スカウトの私の責任になります。

 鳥谷は一流選手になってくれました。実績も十分に残しています。連続出場記録は途切れましたが、ポジションを取り返す力はあると信じています。ただ、鳥谷の性格を考えると、このまま辞めちゃうんじゃないかとちょっと心配です。まだまだやれる力はある。若い選手に対し、もう一度奮起して壁になってもらいたいです。

 ◆菊地敏幸(きくち・としゆき)1950年生まれ。法政二から芝浦工大を経てリッカー。ポジションは捕手。89年にスカウトして阪神入団。藪、井川、鳥谷らを担当。13年限りで退団した。今年から「AbemaTV」で東京六大学野球リーグの解説を担当。

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