悪役俳優ボクサー正野が挑む“大役”
悪役俳優ボクサーで東洋太平洋フェザー級9位の正野晃(35)=アポロ=が念願の“大役”を手にした。4月14日、後楽園ホールで同級王者の竹中良(30)=三迫=を相手に初タイトル戦に挑むことが決定。「王者になれば俳優の道もつながる」とリングで最高の“演技”を固く誓った。
20歳を過ぎ「楽だから」と丸刈り頭にしたのが人生を変えた。鋭い目つきのこわもては迫力を増した。10年前、知人に誘われ「目立つのは好き」とボクサーと二足のわらじで俳優デビューした。
代表作はVシネマ「バイオレンスPM」(10年、石原貴洋監督)。セリフ合わせの際、「ぴったりだ」と石原監督は絶賛。「猟奇的でぶっ飛んでる」と準主役に抜てきされた。
最近の俳優業は2年前。やはりバイオレンスものの「大阪蛇道」(13年、石原貴洋監督)でもちろん“悪役”。大阪の繁華街・ミナミを夜、6人が横並びで歩くシーンでは通行人に映画と知らせずに撮影。「相手をよけさせろ!」との監督要求に「“ホンマモン”が来たらヤバイ」と命がけで「あれは試合より緊張した」と言う。
「ナルシストなところが俳優もボクサーも似ている」と共通項はある。演技は正式に教わったことはなく自己流。「役に入り込む」感覚は特別なものだ。
ただ「今はボクシングだけ」に集中する。14年に3連敗した時は引退を決意。度紀嘉男会長に慰留され、最後と思い臨んだ昨年5月、東洋太平洋ランカーを相手に勝利し、初めてランク入りした。「何としてもタイトル戦をやる」が会長と交わした約束だった。
「ほんまに実現するとは。やるしかないという気持ち。タイトル戦なんかやりたくてもできない。それをやらしてもらえるなんて。獲りたいですよね。会長がこのためにどれだけ労力を使ったか。会長のベルトの隣にベルトを飾りたい」と、元東洋太平洋スーパーフェザー王者の会長に恩返しを誓った。
長崎県佐世保市出身。元WBC世界バンタム級王者・辰吉丈一郎(45)に憧れ、大阪に出た。大阪帝拳に入門し、本人と会って大感激。「入門して3週間で『プロかと思った』と言われたのがめちゃくちゃうれしかった」と忘れない。
当時、辰吉から教わったのが右足の使い方。今、会長からは口酸っぱく右足に力を込めてパンチを打つよう指導される。「アドバイスが一緒なんですよ」と正野は言う。
武器は“2人の師”直伝の右ストレート。足を使い、スピードで揺さぶりながら「一発のパンチ。ワンチャンスをものにするパンチを打つ」と気合。正野が戦績18戦9勝(5KO)6敗3分で、王者は17戦13勝(7KO)3敗1分。格上なのは承知するが、「何が起こるか分からないと」と、金星を狙う。
2歳の愛息は辰吉から2字をもらい「丈汰郎」と名付けた。血は争えず、昨年、子役タレントの鈴木福、小林星蘭らが所属する「テアトルアカデミー」のオーディションを受け、85倍の難関を突破し合格した。「息子はカメラ映りがバッチリ。僕がチャンピオンになったらいつか共演できますかね」と次はパパが名演を見せる番だ。
「強そうな顔のやつは強くないとダメ。弱かったら期待を裏切る。僕はそういう意味でハードルが高いんですよ」。悪役にとっては完全アウェーの敵地こそ望むところだ。(デイリースポーツ・荒木 司)