【長谷川穂積氏観戦記】ボクシングに大事な「5つ」すべて持っているのが井上選手
「ボクシング・WBO世界スーパーフライ級タイトルマッチ」(30日、有明コロシアム)
王者・井上尚弥(23)=大橋=がカウンターで放った強烈な左フックに物をいわせ、前WBA世界スーパーフライ級王者の河野公平(36)=ワタナベ=を6回TKOで下し、4度目の防衛に成功した。大橋秀行会長(51)は、世界4階級制覇王者のローマン・ゴンサレス(29)=ニカラグア=との対戦をにらみ、バンタム級に階級を上げる可能性を示唆した。また、怪物に果敢な接近戦を挑んで散った河野は進退について明言を避けた。
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【世界3階級制覇・長谷川が見た】王者の貫禄を身につけてきた井上選手は、すばらしい試合をしました。リードパンチ、フック、アッパーと多彩な左をタイミングよく使い分け、練習してきた右アッパーも1回から出し惜しみせず。あれはなかなかできないことです。
「怪物」と呼ばれる彼の何がすごいのか。一言で語れないのがその強さです。ボクシングに大事なものは5つ。それは「パンチ力」「スピード」「テクニック」「冷静さ」「勇気」で、井上選手はすべてで10点満点の9点のレベルにあります。
生まれ持ったパンチ力を持つ選手は、他にもたくさんいます。しかし、それを当てるテクニックや上下への打ち分けができなければ意味はない。プラス、常に舞い上がることがなく冷静に試合を組み立てることも重要です。
ちなみに、長谷川穂積というボクサーはどうだったか。冷静さは9、スピードは8、テクニックは7、あとは3くらいだと思います。いや、勇気はあったから9かな?
これからの井上選手がもっと上を目指すには、さらなる世界の強豪との対戦が必要になるでしょう。強い相手に勝って得る自信は大きいもので、さらに強くなれるはずです。
河野選手は僕と同じ36歳。33歳を過ぎるとコンディションをつくるのは難しくなります。その中で井上選手を相手にあれだけの試合をしたのは、挑戦者としてすばらしいことです。
八重樫選手は自分のペースでパンチを当て、相手のパンチはもらわない「一人激闘王」。村田選手は世界前哨戦として結果も内容も問われる中で、いい戦い方での圧勝でした。彼のボクシングは完成形に近づいています。来年の世界挑戦は好機だと思います。(前WBC世界スーパーバンタム級王者、3階級制覇王者)