針金を巻かれ、首の動脈が切れる寸前だった猫…保護した飼い主に「ありがとう」の涙を流す

さいたま市内で4年ほど前、首や4本の足を針金でまかれた状態で保護された雄猫キジトラくん(推定5歳)。とある民家に顔を出してご飯を食べさせてもらっていた野良猫でした。当時保護に関わり、キジトラくんの飼い主となった元保護ボランティアのAさんによると、その周辺では野良猫が多く猫の虐待とみられる事案が相次いでいたといいます。

「8月下旬ごろの暑い日でした。キジトラくんは知人宅にご飯をもらいによくやってきた猫ちゃん。知人から『10日前からキジトラくんの姿を見ていない』と連絡が入ったんです。その地区でけがをしたり亡くなったりと虐待されたとみられる猫が当時多かったので非常に心配していました。

知人宅に足を運び、キジトラくんを探すことになったのですが、ちょうど話している最中にキジトラくんがご飯を食べにやって来て。『あっ、いた!』っと思った瞬間に目をやったら、首に針金のようなものがまかれていました。すぐに保護を考えたのですが、その日は逃げられてしまいました」

そこで埼玉県内の保護活動をしている知人に捕獲方法を相談。猫探しもしてくれるという「便利屋」に依頼しました。

「首のところから20センチくらい針金が出ていたキジトラくん。どこかに引っ掛かったら首に食い込んでしまう…そう思って、猫などの捕獲のプロだという便利屋さんにお願いしました。いなくなった周辺でまたたびを燃やしたりしておびき寄せるなど手を尽くしましたが、すぐには見つからず。依頼してから3日後、捜索中に知人宅の裏から『ウ~』とうなる声がしたんです。その声と同時に『ニャニャニャ』と他の猫の鳴き声もして…それは、知人の飼い猫の声でした」

急いでAさんたちが声のする方へ駆け付けると、ガラス越しに鳴く飼い猫の姿が…その目線の向こうには低い声でうなるキジトラくんがいました。それも物置の下に穴を掘って隠れるように入り込んでいたのです。やはり、まかれていたのは針金。首だけではなく足にもまかれていました。

「明らかに虐待…」

そう感じたAさんは急いでキジトラくんが針金をまかれていたことを相談していた警察と消防署に通報したそうです。駆け付けた警察官や消防署のレスキュー隊の人たちには、威嚇していたというキジトラくん。何とかレスキュー隊の隊長が、タオルで身体を包み込むなどして捕獲しました。捕獲器に入れると、小刻みに身体を震わせおびえていたとのこと。そのまますぐに動物病院に連れて行ったといいます。

「イノシシなどを捕獲する際に使用する『くくり罠』用の針金ロープのようなもので、首から4本の足にまかれていました。獣医師さんによると、その身体中にまかれた針金は歩くと食い込むようになっていたそうです。明らかに虐待行為とのこと。針金が食い込んだ首や4本足は深く切れており、首の動脈が切れる寸前でした」

保護が遅れていたら、死んでいたかもしれないというキジトラくん。命拾いをしたものの、思いのほか傷は深く、切れた部分を縫うための手術を行うことになりました。ただ、保護した当日はとても衰弱していたため、点滴などで栄養をつけてから手術は翌日に。そして1カ月ほどの入院を経てから退院し、Aさんがキジトラくんを引き取りました。

■「命の恩人」にニャーニャーと甘えてご飯をねだる

針金をまかれるなどして虐待を受けたキジトラくん。病院の看護師から「人に対して警戒心が強く、なつかないかもしれませんね」と言われていました。そんな心配をよそにAさんの自宅に到着後、おいしそうに先住猫と仲良くご飯を食べたといいます。

「キジトラくんは、我が家の猫たちがご飯を食べ始めると『僕もほしい』とニャーニャーと鳴き始めました。食べさせたら、おいしそうに食べて…先住猫のほかにキジトラくんと同じ場所に一緒にいた猫たちも保護したので、きっと同じ仲間がいると安心したのでしょう。私にかんだり引っかいたりもしませんでした。もしかすると私のことを『苦しい状態から助けてくれた命の恩人』だと思ってくれたのかもれしれません。彼のつらかった思いを想像すると、ふと涙が出ました」

さらに、Aさんのおうちに来てから1年ほど経ったある日のこと。キジトラくんはぜん息のような咳とひどい熱の風邪にかかり、呼吸困難などで再び苦しい思いをしました。なかなかご飯も食べられない状態でしたが、Aさんが「これなら」と思ったキャットフードをあげたところ、何とか食べられたというキジトラくん。そのとき、キジトラくんの目から涙があふれていたそうです。

「残酷なことをされてつらい思いをしたキジトラくん。再び病気で苦しい思いをして、かわいそうでした。でも、苦しくてもキャットフードを食べられたとき、うれしかったのか、彼の目からこぼれた涙が今でも忘れません。そのとき、私も一緒に泣きました。あらためて猫も豊かな感情があるんだなと…我が家に来て安心して自分の気持ちを正直に出してくれるキジトラくんがとても愛おしいです」

そんなキジトラくんとの出会いから4年ほど経った今、手術跡もきれいになり、もともと体格の良かった身体もさらにひとまわり大きくなり体重も10キロほどに。仲間の猫たちとともにAさんのおうちでのんびりと過ごしています。保護活動から引退したというAさんは「この子たちでもう最後。二度と嫌な思いをさせたくないから、私が長生きしてこの子たちを最期まで見届けます」と、話してくれました。

(まいどなニュース特約・渡辺 晴子)

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