【長谷川穂積の拳心論】一翔は“防衛に挑戦”すれば さらに大きな未来が
「ボクシング・WBA世界フライ級タイトルマッチ」(23日、エディオンアリーナ大阪)
今春、デイリースポーツのボクシング評論家としてデビューした世界3階級制覇王者、長谷川穂積氏(36)が、理論とスピリットでリングに迫る「拳心論」で、ダブル世界戦を分析した。世界戦14勝目を挙げた井岡一翔には、さらなる飛躍の鍵として“防衛への挑戦”を提言した。
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【長谷川穂積の拳心論】
やりにくい相手にしっかり勝利した井岡君を評価したい。強い相手でも、そうでない相手でも、同じように戦って勝てるのは彼の強みだろう。ただ裏を返せば、今回は相手のレベルがそれほど高くはなく、その相手の良い部分を出してしまったとも言える。
相手の良さを出させないボクシングをしないと、ダメージの蓄積につながる。圧倒して早い回で倒せば、体への影響も少なかったはずだ。
なぜ僕があえてこう言うかというと、もったいないと思うから。若い頃から力があり、大変強い王者である井岡君が、このくらいの相手と防衛戦をして収まっているのはもったいない。
防衛はもちろんベルトを守ることが一番大事なのだが、これくらいの王者になれば“防衛に挑戦する”という選択肢もある。マッチメークは簡単ではないが、少し危険だと思う相手と戦う価値は彼には十分にあると思う。防衛し続けることで守りに入ってしまうことがあるが、防衛に挑戦することで、もっとすばらしい未来が待っていると僕は思う。
大森君は1年半前に敗れた相手との再戦で、恐怖心が先に立ったように見えた。序盤は前回ダウンを喫したことを踏まえて防御を意識していた。しかし6回以降、明らかに動きが落ちたのは、あごにダメージを受けたからだろう。インターバルの水とともに血を吐いていたため、骨折かもしれない。
僕にも経験があるが、あごが折れるととんでもない痛みが走る。中盤以降はダメージより痛みで恐怖心が増したとも考えられる。
一緒に練習をしたこともある大森君だけに、僕も残念だった。ただ、経験不足は否めない。まずダメージをしっかり抜いて、この失敗を糧に、また王座に挑戦してほしい。(元ボクシング世界3階級制覇王者)