競馬ギガ盛ブログ「秋山真一郎騎手の引退カウントダウン(EP Last)」(2月23日)
親しいジョッキーが引退の日を迎える。なんとも言えない、センチな気分…。栗東・井上です。昨年12月に新規調教師免許試験に合格した秋山真一郎騎手が25日、小倉でラスト騎乗を迎えます。騎手に憧れた少年時代『EP1』、師匠との思い出やG1初制覇について語ってもらった『EP2』に続き、『EP Last』をつづりたいと思います。
秋ヤンは『生涯現役』と思っていました。幼なじみの武幸四郎、同期の村田一誠が調教師に転身しても、「乗せてもらえる調教師がまた増えた」と笑い飛ばしていましたから。それぐらい騎手という職業に強いこだわりを持っていました。「いつか、メンタルの面で“もうええや”ってなるかなと思っていたんです。そのときに考えよう、と。50歳になったらやるかってぐらい調教師は遠くにあった」と語ります。
そんな遠い存在が、急に近くなった。転機は落馬負傷でした。20年10月28日に栗東トレーニングセンターで調教中に落馬し、第一腰椎の破裂骨折と診断されました。それまで、小指を骨折した程度で手術も初めてだった秋ヤン。当時のブログにも書きましたが、電話で「病名よりは元気ですから。神経も脊髄もマヒしていないし、これで済んでよかったと思っています。俺もケガするんや…って。そうそう、今年厄年なんですよ」と笑っていたのが印象的です。
ただ、この骨折が騎手引退の引き金になりました。「治ったけど、今思えば無理をしていた。大丈夫じゃなかった。腰を金属で止めているから思うように動かない。病院もサポートしてくれて、リハビリもやったけど、実際に乗ると違和感がある。でも、やれる、全然できる、技術の衰えはないって。認めない、強がり続けるんだろうな、って思っていたんですよ」。心が折れそうになるのを、負けず嫌いの性格で阻止していた。
「でも…ね…」。険しい表情でこう続ける。「一番残酷なのは映像です。これ、だいぶ変やぞ、って。自分が思っているよりもズレがあって。映像を見て“あかんな、これ”って。一番いいなと思っていた30代半ばの映像と見比べると“全然違うやん!”って。自分にがっかりした。依頼してくれる厩舎関係者にも失礼だし、その依頼もなくなってくるし…。そろそろかな、勉強しよかって」。レースを見ていて、秋ヤンがどの位置にいるかはフォームで分かる。それぐらい奇麗。ワタクシには、どこがどう違うのか分からないけど、馬に負担をかけないフォームを追求してきた本人にとってはその“ズレ”が許せなかったようです。
幼少期から騎手に憧れ、夢だった騎手になれた秋ヤン。後ろ髪を引かれる思いだったことでしょう。「一生いったろ、って、これでずっといったろ、って思っていたんですけどね。有力馬の依頼もなくなってモチベーションが保てない。ずっと楽しかったジョッキーという仕事なのに、おもろないが大きくなってくる。“もう一回、G1を勝ちたい!”って思っていたし、G1で後ろの方を走っていても“もう一回勝ったろ”ってモチベーションがあった。でも、それがなくなって…」。G13勝目はかなわなかった。
思い出に残る馬やレースは?引退を前にしたジョッキーに聞く、ごく普通の質問だ。ホント、申し訳ない。これだけ長く騎手をやっていたら、ひとつに決められるものじゃない。それは分かっています。でも、すぐに答えが返ってきました。「馬は選べないけど、レースはベッラレイアのオークス」。G1初勝利でもなく、1番人気で鼻差敗れた一戦です。「これは一生忘れられない。いろんな感情が。ただ、あれがあったから、乗り方、バランス、重心をすごく意識するようになった。ターニングポイント」と振り返ります。
28年の騎手人生で曲げなかったこと、貫いてきたことは-。「ジョッキーとしてのプライド」と胸を張ります。そして、「楽しかった。そして、一瞬でしたね。あっという間。それだけ楽しかったんだと思います。調教師になっても、同じぐらい楽しみたい。そしたら最高ですよね」と優しく笑ってくれました。
華麗、しなやか、センスの塊。そんな表現で伝えたいジョッキーでした。「競馬に乗れなくなるのが悲しい」。「未練と後悔しかない」。「やりきった感もない」。秋ヤンが吐露したこの言葉に騎手・秋山真一郎のプライドが垣間見えます。ラストライドは25日の小倉競馬場。現地に行くと、本人よりも泣いちゃいそうだし、当日のワタクシは阪神競馬場です。モニター越しに、その姿を目に焼き付けようと思います。
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