「今から見た正解」ではなく当時の混乱をリアルに──朝ドラ『おむすび』はコロナ禍をどう描いたか
今週放送された連続テレビ小説『おむすび』(NHK総合ほか)第23週「離れとってもつながっとうけん」では、2020年春から始まったコロナ禍を描いた。結(橋本環奈)が管理栄養士として働く大阪新淀川記念病院にはコロナウイルスに感染した患者が次々と運び込まれ、医療スタッフたちは必死で対応にあたる。NST(栄養サポートチーム)の回診が中止、管理栄養士によるミールラウンドも大幅に回数削減となり、栄養科のスタッフたちは手探りで自分たちにできることを模索する。
家族への感染を防ぐために花(宮崎莉里沙)と翔也(佐野勇斗)を神戸の実家に残し、十三のマンションで一人暮らしをはじめた結。医療従事者たちの、それぞれの苦悩が描かれた今週の作劇にこめた思いについて、制作統括の宇佐川隆史さんと真鍋斎さんに訊いた。
■ 日本中、世界中が苦悩したコロナ禍。そのとき医療従事者たちは…真鍋さんは「朝ドラというカテゴリーのなかでコロナ禍を描くこと、そしてどこまで踏み込むかについて葛藤はありました」と述べ、こう続ける。
「しかしあれだけ日本中、そして世界中が本当に苦労したコロナ禍。決して忘れてはならないし避けては通れないと、覚悟を決めて描きました。『コロナ禍』と呼べる期間は約3年半ほどありますが、ドラマとしてはいちばん人々が恐怖し、何が何だかわからない混乱のなかで翻弄された2020年の3月から4月ごろに集中的にスポットを当てました」。
また当時の状況を振りかえり、「2020年の春ごろから、医療従事者に対する偏見やいわれのない中傷が取り沙汰されました。いまだかつて医療従事者の方々があそこまで心理的に追い込まれたことはなかったのではないかと思います。取材していくなかで、そんな状況下でも矜持を保ち続け、懸命に感染者の治療に当たった方々の職業意識の高さに感銘を受けました。医療考証をお願いしている方のなかには、全国で初めて『コロナ専門病院』として指定された大阪・十三市民病院の院長を務められた先生もいらっしゃいます。そういった方々から綿密に話をうかがいつつ、23週を作りました。当時の医療従事者の皆さんの苦悩と奮闘が、今週全編を通して描写できたのではないかと思っています」とコメント。
感染症対策で患者と触れ合うことができなくなった、結をはじめとする栄養科のスタッフの尽力について真鍋さんは、「患者さんと対面することがなくなった管理栄養士さんたちがどう対応したのか。話を聞いていくと、特効薬もないなかでは自己免疫を上げてもらうしかないと。ドラマの中でも描きましたが、ますます食事療法が重要になってくるので、免疫力強化メニューに変えたりなどの取り組みを実際にされたそうです。けれど、その効果や理由を直接説明することも許されない。家族とも面会できず患者さんの気持ちがどんどん沈んでいくなか、精神面のケアに一役買えないかと、食事のトレーに手紙をつけたり、少しでも食べやすいデザートをつけるなどの工夫をされたといいます」と話す。
■「今から見た正解」ではなく、2020年当時の混乱と手探りの工夫を描いた結が家族から離れて食事をとり、おむすびを素手でなくラップで握る姿や、大阪のマンションで一人暮らしを始めてからは翔也ともドア越しでしか会話できないなど、当時の医療従事者の苦悩が胸に迫った。
こうした描写について宇佐川さんは、「『そこまでする必要はなかったのでは?』という声が、今の時代の私たちの視点で見るとあるかもしれませんが、あの時期はまだワクチンもできていなければ、コロナの実態についていろんなことがまだ明らかになっていませんでした。そんななかで、正しいかどうかはわからないけれど『なんとかしたい』『今できることは全てやる』という、当時の皆さんの『手探りの工夫』を描きました。『今から見た正解』ではなく、あの当時の混乱をそのままの形で残した部分があります」と語る。
さらに、「『おむすび』は企画の段階から『平成を超えて、自分たちに戻ってくる物語』を目指してきました。そう遠くない、手触りの残る歴史を描くなかで、コロナ禍というのはとても重要な出来事のひとつ。ほんの5年前の出来事だけれど、『ああ、当時こうだったよな』とあらためて思い返すことができるのではないかと。制作者の私たちも、当時の感覚をひとつひとつ思い出しながら作りました。『2つの大きな震災とコロナ禍を経て私たちは、こういう歴史を歩んできたんだ』ということを伝えることで、『次につながる何か』を考えることができる週になっているのではないかと思います」と宇佐川さん。
22週で、幼なじみの菜摘(田畑志真)が企画した「高齢者向け弁当」の開発に協力したことで、コンビニ会社「フォーチュンストア」の商品開発部からスカウトを受けていた結。しかし、コロナ禍で奮闘する周囲の医療スタッフたちの姿に鼓舞され、ずっと病院の管理栄養士を続けることを家族の前で誓った。物語はいよいよラストスパート。結が広く大きく、困難に面した人たちを支えていく姿を、最後まで見守りたい。
取材・文/佐野華英
(Lmaga.jp)
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