男子エペ団体 太田超えフェンシング初の金 4騎士快挙!フランス撃破で波に乗った
「東京五輪・フェンシング男子エペ団体・決勝」(30日、幕張メッセBホール)
男子エペ団体決勝で山田優(27)=自衛隊、宇山賢(29)=三菱電機、加納虹輝(23)=JAL、見延和靖(34)=ネクサス=の日本がROC(ロシア・オリンピック委員会)を45-36で下し、同競技で初の金メダルを獲得した。同種目の表彰台は日本勢初で、日本のメダルは2012年ロンドン五輪男子フルーレ団体で2位に入って以来。この日柔道女子78キロ超級の素根輝(パーク24)も優勝し、日本の金メダルは今大会17個に達し、1964年東京と2004年アテネ両五輪を上回って史上最多となった。
まさに「ジーーン」とくる光景だった。ROCとの決勝。最後、45点目の突きを決めた加納に、宇山、山田、見延がピストになだれ込んできて歓喜の輪ができる。日本フェンシング界初の金メダル。4人の剣士が歴史を変えた瞬間だ。加納は満面の笑みで言った。「まだ信じられないけど、これが夢じゃないことを祈ってます」-。
出場9カ国中、チームランキングは下から2番目の8位。決勝トーナメント1回戦の米国戦で最大8点差を逆転したのが、壮大な下克上ののろしだった。ハイライトとなったのは準々決勝、フランス戦。世界ランク1位で3連覇中だった“絶対王者”を相手に粘りの戦いで、僅差で食らいついていく。36-38で迎えた最終決戦に登場したのは加納。18年世界王者のボレルを相手に互角以上の戦いを見せると、もう1点もやれない43-44の場面で、相手が攻めに出てきたところをかわしながらの突きを2連発。ジャイアントキリングで、一気に頂点までの流れを作った。
団体チームの愛称は「エペジーーン」。フルーレ、サーブルとの区別をつけるために自分たちのことを「エペ陣」と呼んでいたことに、エペで見る人を感動、すなわち「じーーん」とさせたいとの思いで見延が名付けた。
主将を務める見延が「まとめようがない時がある」と話す、スタイルも、性格も、信念も違う4人。ただ、それぞれが互いの力だけは認め合っていた。個人戦は山田のベスト8が最高だったが「史上最強」と自負する団体こそが本命だった。
フェンシングは日本では北京五輪銀メダル、ロンドン五輪団体銀メダルを獲得した日本協会前会長の太田雄貴氏のフルーレが有名だった。ただ、攻撃権があり、胴体のみが有効のフルーレと違い、頭からつま先まで全身どこを突いてもポイントになり、とにかく先に突いた方がポイントになるエペは、フェンシングの中で「相手の血を流せば勝ち」という古来決闘のシステムを最も色濃く受け継ぐ。かつて太田から何度もフルーレ転向を誘われながら、「エペの方が面白い」と首を縦に振らなかった見延は「3種目の中で最も競技人口が多い種目。“キング・オブ・フェンシング”であるエペが認知された。これから大きな役割がある」と、力強くうなずいた。
まるで命を賭すかのような壮絶な死闘を制し、種目の魅力を存分に伝え、ついに日本のレジェンドでも手に届かなかった黄金の輝きを手にした。「エペジーーン」の愛称通り、きっとその切っ先は、見る者の心を突いた。