清水希容 世界女王に及ばず悔し涙も輝く銀“宿命”に苦しみながらも刻んだ「自分の演武」
「東京五輪・空手女子形・決勝」(5日、日本武道館)
新種目の空手で、女子形の清水希容(27)=ミキハウス=が銀メダルを獲得した。決勝では27・88点で、28・06点だった18年世界女王のサンドラ・サンチェス(スペイン)に敗れた。組手は女子55キロ級に宮原美穂(帝京大職)、男子67キロ級に佐合尚人(高栄警備保障)が出場し、ともに予選リーグで敗退した。
鋭いまなざしで聖地・日本武道館にその声を響かせた。清水は決勝でスピード感あふれる演武を披露。最後は目を閉じ得点を待った。結果は銀メダル。「やっぱり、金メダルが良かったな」とうつむきがちに振り返ったが、前を向き直り「この舞台に立たせていただいて、ここで演武できて本当に良かった」と涙。「納得した演武ができたと言えなかった時点で敗因を作ってしまった」と受け止めた。
14、16年世界選手権を連覇。しかしその後は、空手発祥の地である日本代表は負けたら駄目だとの“宿命”に苦しんだ。勝つことを意識しすぎて、感情のコントロールに苦戦。闘志を全開にすべきか、逆に出さずに秘めるべきか、試行錯誤を重ねたが、18年世界選手権はサンチェス(スペイン)に敗れ銀メダルに終わった。
「絶対にもう負けたくない」。決意はしたものの何が足りないのか、審判が何を減点しているのか。考えてもなかなか答えは見えなかった。
心を整えるため山登りやお寺巡りに挑戦した。善光寺で写経にもトライ。リフレッシュのため屋久島へも行った。心技体の充実と向き合い続けてきた。
21年2月、男子形代表で近年負けなしの喜友名諒と沖縄で合同稽古を行った時、純粋に強さだけを追い求める喜友名の姿に、空手競技の神髄を見た。
「勝っていた頃の自分は、勝ち負けよりその時どれだけできるか、どれだけ楽しめるか、どれだけ成長できるかと取り組んでいた。だからこそ強かった」
この日は勝ち負けを意識せず、予選でも自ら得点を確認しなかった。これまで築いてきた空手を、この畳に刻む。それだけを心に決めて挑んだ。
「ずっと勝ち負けを気にしすぎて自分の演武ができず苦しんできた。今日は自分だけに集中して、自分という形を打とうと思って立てたことが財産」と清水。「悔しい」が本音だが「ここ最近の中では気持ちを強く演武できたので、自分を褒めてあげたい」といい「技術はまたこれから、稽古で積み上げたい」とうなずいた。
清水は座右の銘を問われた時やサインに一言添える時に「信」と書く。金メダルはならなかったが、己と向き合い、もがき、逃げずに自分を信じたからこそ、つかみ取った銀メダルだ。