【芸能】阪神の入団テストを受けていた伝説の名カメラマンとは
2月16日に亡くなった作曲家・船村徹さんが若き日に巨人の入団テストを受けていたという逸話から、もう1人、別ジャンルの偉大なクリエイターを思い出した。映画カメラマンの仙元誠三氏だ。大島渚監督の「新宿泥棒日記」に端を発し、松田優作さんや薬師丸ひろ子の主演作などで映画界に足跡を残した仙元氏は、阪神の入団テストを受けていた。
両者に接点はないが、プロ野球選手を志して東西の人気球団を受験し、不合格となったことで、その後、音楽や映画という文化面での道を究めた点において共通している。その仙元氏を取材し、雑誌『映画秘宝』で「キャメラを抱いて走れ!仙元誠三回想録」を連載中のライター&映画監督の山本俊輔氏に話を聞く機会があった。
山本氏は、この2年間に続けて刊行された「NTV火曜9時 アクションドラマの世界」と「映画監督 村川透 和製ハードボイルドを作った男」(佐藤洋笑氏との共著)で、仙元氏も関わった1970~80年代のテレビドラマや映画にオマージュを捧げている。
75年生まれの山本氏は「回顧趣味ではなく、今の映画やテレビドラマで失われたものが発見できる」と語る。石原プロ制作の「大都会」シリーズ(76~79年)、勝プロ制作で勝新太郎さんが主演、監督も務めた「警視-K」(80年)といった作品群は、リアルタイムを知らない後の世代にとって初めて見る新鮮な作品、略して“新作”であり、大きな影響を受けた。杉本彩らが出演し、3月3日にDVDレンタル開始となる山本氏の監督作「愛に渇く」には、その精神が貫かれている。
「(松田主演、村川監督、仙元撮影の)『野獣死すべし』のラストのように、対象に寄らない映画的な場面や、会話のシーンをワンカットで移動しながら撮るところが“仙元誠三的”と指摘されてうれしかった。仙元さんも『映画撮ろうよ』と言ってくださり、これは実現したいなと」
2016年に公開された「さらば、あぶない刑事」でカメラマンとして健在ぶりを発揮した78歳の仙元氏は現在、山形県在住。取材の度に上京して山本氏と向き合う中、着々と次作に向けての意欲を高めているようだ。
17年の幕開けから2カ月。映画界では松方弘樹さん、鈴木清順さんという偉大な存在の訃報が続いた。追悼企画として、松方さん唯一の監督作品「OKITE やくざの詩」(03年)が3月31日に東京・新文芸座で上映されるが、くしくも同作の撮影担当は仙元氏である。松田優作監督の「ア・ホーマンス」に続き、大スター俳優の監督デビュー作を職人として熟練のカメラワークで支えたことにおいて、“男の星座”ではないが、つながっているな、と感じた。(デイリースポーツ・北村泰介)