【芸能】志村けん 津軽三味線演奏中のハプニングで見せた素顔~バカに徹するマジメさ

 日本を代表するコメディアンの1人である志村けん(67)にとって、2006年から毎年行われているライフワーク的な主演舞台が「志村魂(こん)」である。猛暑日の東京公演2日目(8月9日)、津軽三味線の演奏コーナーで起きたハプニングから、テレビではなかなかお目にかかれない素顔が垣間見えた。それは志村の舞台に対する姿勢を物語る象徴的なシーンだった。

 曲目は津軽三味線の師匠・上妻宏光が作曲した「風林火山~月冴ゆ夜~」。壮大かつ叙情的な旋律をキーボード奏者と共に奏でる中、序盤で三味線の音程が一瞬ずれた。そのまま進行するかと思うまもなく、志村はバチを持つ右手を止めた。

 突然の演奏中断。「これもネタか?」と、客席で笑いが起きる。志村は「緊張するよね、なんだか知らないけどね…」とつぶやき、こう続けた。「テレビだったら何回でも(撮り直しが)できるんだけど、舞台は次の失敗ができないから」。真剣な表情と小声でテレビと舞台の本質を語る。先ほどまでバカ殿様のコントで「アイーン」をやっていた姿とのギャップが際立った。

 志村は気を取り直して一から演奏を始め、難曲を最後までやり通した。万雷の拍手を浴びながら客席に一礼して背中を向けると、袴の臀(でん)部がくり抜かれており、Tバックの“半ケツ”をむき出しにしてオチが付いた。“頑張った美談”で終わらせない、その半ケツに芸人としてのマジメさを感じた。

 続く松竹新喜劇のリメイク「先(ま)づ健康」では、ダチョウ倶楽部、大場久美子、桑野信義らとアドリブも交えつつ、藤山寛美さんへのリスペクトを込めた人情喜劇で場内をしんみりさせた。もちろん、それだけでは終わらない。「おまけ」と題した閉幕後のコントで変なおじさんの「だっふんだ!!」で締め、最後までバカに徹するマジメさを貫いた。

 8日から始まった東京公演は17日で千秋楽。続いて大阪・新歌舞伎座で19~22日の4日間5公演を迎える。昨年の8月19日、志村は大阪公演初日後に肺炎で倒れて緊急入院。早いもので、あれからちょうど1年になる。志村はパンフレットに掲載された共演者との座談会で「去年は僕が病気で公演を休んでしまったので責任を感じています。なので、今年は健康に気をつけて舞台に挑みたいと思います」と誓っている。

 09年6月、プロレスラーの三沢光晴さんがリング禍で死去した際に、志村は自身のブログで「私も舞台の上で死ねたら本望」とつづった。死ぬまで納得いく舞台を重ねていくこと-。三味線演奏の失敗後に吐露した「舞台は次の失敗ができない」という言葉はその決意を物語っていた。(デイリースポーツ・北村泰介)

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