【サッカー】元浦和・鈴木啓太氏の“気配り力”
階段の踊り場を通ると、爽やかな香りに包まれる。窓にアロマジェルボトルが置いてあるからである。花がふんだんにちりばめられたボトルは、J1浦和を引退した鈴木啓太氏の夫人・畑野ひろ子さんの手作りのものだ。
この夏、鈴木氏は埼玉スタジアムで引退試合を行った。その試合後に、一部の報道陣に声をかけて配ったのが、このアロマジェルボトルだった。「告知していただいたので、そのお礼です」-。
確かに数日前に数社で取材する機会があった。引退試合に関する原稿を書かせていただいたのだが、わざわざそのお礼をということだった。多忙な中、記者の1人1人に対してここまで気配りをする選手は、あまり見たことがなかった。
04年のアテネ五輪最終予選を取材した。鈴木氏はそのリーダーシップから、U-23日本代表の主将を務めていた。五輪出場を決めた後、6月の親善試合のころだった。オーバーエージ枠で当時フェイエノールトのMF小野伸二(現札幌)の招集が確実となった。その一報に、鈴木氏は複雑な表情を見せていたのを思い出す。
札幌での親善試合の後、こう話した。「伸二さんと一緒にやりたい。でも伸二さんが来たら僕が外れるかもしれない」。同じボランチのポジション。小野が入る以上、鈴木氏の立場は微妙になった。数日後、発表されたメンバーに「鈴木啓太」の名はなかった。
決して、技術的に優れた選手ではなかった。だが、危機管理能力に突出したものがあった。上から見ていて、「なぜここにいるんだろう?」と思わせることが多かった。ヤバイと思われるところに、いつも背番号13がいる。愚直にピンチの芽を摘む姿が印象に残っている。
アテネ五輪の悔しさを晴らす機会は、2年後に訪れた。06年に就任したイビチャ・オシム日本代表監督からは、その献身的な姿を「水を運ぶ人」と表現された。オシム政権下では全20試合に先発出場を果たした唯一の選手となった。
自ら“主役”となった引退試合。浦和で戦ったメンバーと、日本代表の同期が集った豪華メンバーとの“同窓会”をこなしながら、報道陣への気配りを忘れなかった姿。現役時代の“水を運ぶ人”と表される献身的なプレーも、やはりピッチ内での気配りの現れだと思う。
指導者か、フロントか、それとも別の何らかの形か。鈴木氏は将来的に浦和に携わる思いがあることを明かしている。「僕が行くことでチームがプラスになる、そういう仕事をしたい。それまでしっかり実力をつけて、僕にしかできない仕事ができれば」。そのときになれば間違いなく発揮される“気配り力”。どんな形で発揮されるのか、将来を、楽しみにしたい。(デイリースポーツ・鈴木創太)
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