【芸能】“ギタリスト・植木等”の姿とは~「戦友」が明かすクレージー伝説
NHKでドラマ「植木等とのぼせもん」が10月まで放送され、改めて「ハナ肇とクレージー・キャッツ」が何度目かの再評価の時期を迎えている。その最終回前夜、都内で「ジャズと銀座とクレージー・キャッツ」と題したイベントが開催された。日本の高度経済成長期を体現したカリスマ・植木等(享年80)の没後10年、数々のエピソードを同世代の“戦友”から聞いた。
クレージーの結成は1955年だが、植木の加入は57年。今年で60年の節目となる。後追い世代として、知りたいのが“ギタリスト・植木等”の姿。54年当時、「フランキー堺とシティ・スリッカーズ」で植木の同僚だったサックス奏者の稲垣次郎(84)を直撃し、裏話をうかがった。
「スリッカーズのアタマ(初期)の頃、(ギタリストとしての腕は)相当なもんだった。でも、終わりの方はダメよ。半年くらいたってからは全然(練習しない)。毎日チャンバラやってましたよ」。この時期、既に植木は役者として生きる道を意識していたことが伝わるエピソードだ。
稲垣はその後、前身バンド「ハナ肇とキューバンキャッツ」に加入するが、自身の音楽を追求して脱退。“クレージーにならなかった男”が70年代初頭に残した「ジャズ・ロック」の名盤の数々は現在もDJに回され、CDの再発も続く。
元TBSプロデューサーの砂田実(86)は「タレントと個人的に付き合わなかった私が、1人だけ付き合ったのが植木さん。本当に親友として尊敬した」と語る。TBSの社員でありながら、フジテレビ開局と同時に始まったクレージー出演番組「おとなの漫画」(59~64年)の構成作家を務め、会社の枠を越えた“ショクナイ(内職)の帝王”と称された砂田。植木の「アイデアル」、桜井センリの「ルーチョンキ」という名コピーを生んだCMにも関わった。
砂田がプロデュースしたTBS系「植木等ショー」(67~68年)の映像が流れる中、МCを務めた娯楽映画研究家・佐藤利明(54)は「ジャズマンでコメディアン(のクレージー)がテレビの黄金時代を支えた」と解説。劇団ワハハ本舗座長で、「ガリガリ君」のCMソングでもおなじみのトリオ「ポカスカジャン」のリーダー、大久保ノブオ(50)は「今、サラリーマンが“気楽”だと言えない時代」と、表現に制約の多い現代と、おおらかだったテレビ草創期のギャップを指摘した。
砂田は「クレージーの前にも(匹敵する存在は)ないし、これからもないでしょう」と言い切る。「(臨終の床で)植木さんはきれいな顔をして寝ていらした。私が『もう1回頑張ろうよ、生き返ろうよ』と声をかけたら、『わかっちゃいるけど、やめられない』と、あの世に行かれた」と締めくくった。テレビマンの粋(いき)だった。=敬称略=(デイリースポーツ・北村泰介)
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