本塁打王を獲得した経験がある選手に対して失礼を承知でいうと、大砲というイメージではない。ただ、記録をひもとくと、やはりカテゴリーは『ホームランバッター』に入る。ヤクルト・山田哲人内野手だ。６月３０日の阪神戦で通算１５０本塁打をマーク。２５歳１１カ月での達成は、池山隆寛（現楽天２軍監督）の２６歳４カ月を塗り替える球団史上最年少だった。

　日本球界を代表する大砲といえば、ＤｅＮＡ・筒香を思い浮かべる人は多いだろう。こちらも、５月２４日に１５０号本塁打を放った。２６歳５カ月での達成は球団最年少。所要は７３９試合だった。近い時期の１５０号。「おやっ？」と気になって調べてみた。山田哲の所要は７５０試合。ペースもほぼ変わらないことを知り、少なからず驚きがあった。

　山田哲を若手時代から指導するヤクルト・杉村巡回コーチは「あんな長距離砲になるとは。そんな能力があるとは思っていなかった。オレの目が節穴だった」と苦笑する。すごいのは「普通の大学生みたいな体格をしたヤツがやってのける」ことだという。球団公式プロフィールでは１８５センチ、９７キロの筒香に対し、山田哲は１８０センチ、７６キロ。確かに言うこともうなずける。

　細身のスラッガーがアーチを量産できるのはなぜか。杉村コーチは「スピードやろね」と即答した。「走るスピードはもちろんやけど、体の軸回転するスピード、バットスイングのスピード。あとは、気持ちを切り替えるスピード、打撃を修正するスピード…すべてにおいて速い」と分析した。球界でも屈指のスピードを、最大限にボールを飛ばす力に変換できる。そんな異能だからこそ、横浜時代に筒香らを指導した同コーチも「これまで見た選手の中でNo.１」と断言するのだろう。

　１３日に京セラドーム大阪で行われたオールスター第１戦。山田哲はホームランダービーに出場した。抱負を聞いた際には「ホームランは打てるけど、嫌やなあ。みんな飛ばすのに、自分は（柵越え）ギリギリやから」と恥ずかしがっていた。実際、対戦した吉田正が５階席への当たりを何本も放り込んだのに対し、山田哲は５階席への当たりは５本中ゼロ。それでも、ファンからは大きな歓声を浴びていた。

　筋骨隆々の打者がパワー全開で放つ特大弾は、もちろん迫力がある。一方で、一見はスラリとした打者が目にも止まらぬスイングで放つ鋭いアーチも、また違った魅力にあふれている。多くの野球ファンが山田哲に魅了される理由の一端を、あらためて確認した気がした。（デイリースポーツ・藤田昌央）