【谷光利昭医師】寒い季節…怖いクモ膜下出血への対処法

 いつも朝に来院される高齢の女性が、珍しく夕方に来院された。「頭が痛いの…」。受付では笑顔で挨拶をされたが、具合が悪いらしく点滴室のベッドに移動して横になって頂いた。順番が来て呼びに行くと高いびきをかいて起きられない。脳卒中だ。呼吸、循環動態は安定していた。至急、救急車で脳外科の病院に移送した。

 数日後、お亡くなりになられたと病院から報告を受けた。原因は脳動脈瘤(りゅう)破裂によるクモ膜下出血だった。

 これだけ医療体制が発達した現代でも、クモ膜下出血は重篤な疾患で、社会復帰できるケース、重度後遺症を残すケース、死亡するケースがそれぞれ3分の1と言われている。脳動脈瘤の破裂が、原因の80%以上を占め、40代から60代の女性に好発する。次に多いのが、脳動静脈奇形で5~10%程度あり、20代から40代の男性に好発する。

 症状としては、バットで殴られたような激しい頭痛があるが、今回のように警告頭痛という激痛が出現する前に起こる頭痛がある。出血源からの微小出血によって引き起こされ特異的な症状ではない。この症状だけで、クモ膜下出血を疑うことは非常に難しい。

 その他にけいれん、意識障害、悪心、嘔吐、首の後ろが硬くなる項部硬直といわれるものが出現するが、様々な症状があるので診断に難渋することも少なくない。治療としては、血の塊(かたまり)を取り除いたり、動脈瘤を縛ったり、動脈瘤の中にコイルを詰めたりなど状態により適切な治療を行う。喫煙、高血圧、過度の飲酒が原因に深く関係し、次に未破裂の脳動脈瘤が関係していると言われており、予防策として推奨されているのは、禁煙、高血圧の治療、禁酒である。未破裂の動脈瘤に関しては、大きさ、平均余命、動脈瘤のある場所、形状などを勘案して治療が行われる。

 寒い季節になります。気温の低い風呂場での脱衣や、トイレでのイキミもこれらを破裂させてしまう要因になるので、脱衣場、おトイレは可能な限り暖かくして頂きたいです。クモ膜下出血以外にも、狭心症、心筋梗塞など血管の病気が多くなる時期です。血圧の上昇に注意しながら、冬を無事に乗り切ってください。最後に高齢の女性のご冥福を心より、お祈り申しあげます。

 ◆筆者プロフィール 谷光利昭(たにみつ・としあき)兵庫県伊丹市・たにみつ内科院長。外科医時代を経て、06年に同医院開院。診察は内科、外科、胃腸科、肛門科など。デイリースポーツHPで「町医者の独り言」を連載中。

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