【中塚美智子医師】虫歯や歯周病は「そのうち治る」ことはない、放っておくと危険な場合も

 この数週間ほど胃痛に苦しんでいます。薬を飲んだら治ると思っていたのですが、その気配はなし。「自分は大したことないと思ってても、意外に悪くなってるもんですよ」という同僚の恐ろしい言葉に漸く受診を決意し、情けないことに現在治療中です。

 「大したことない」、「そのうち治る」-。体の調子が悪くなった時、ついこのように考えてしまいませんか。とはいえ、胃や腸、肝臓などは悪くなると生活にかなり支障が出たり、場合によっては命にかかわったりするため、少なからず受診を決意されるのではないかと思います。しかし、歯科の場合は虫歯では死なないと思われるのか、受診まで至らないことがあるようです。

 時々聞くのが「歯がものすごく痛かったけど、薬飲んで我慢してたら痛みが消えて治った」というもの。歯の痛みが消えたのは、虫歯が進行し、痛みを脳に伝える神経が死んでしまったからに過ぎません。虫歯の原因菌は歯の中に依然残っていて、治療しなければさらに歯の根の先に進み、やがて顎の骨に炎症を起こします。骨の中にある血管に細菌が入り、血流に乗って全身に細菌が運ばれると、最悪の場合敗血症を起こして死に至ることも。これは歯周病でも起こる可能性があります。

 歯茎の腫れや出血、口臭などはつい軽く考えてしまいがちですが、これらは全て歯周病でみられる症状。歯周病を放置していると顎の骨が全体的に溶けて減り、歯がグラグラして抜けることもあります。歯を失うとかみにくくなり、特に高齢者では栄養の吸収効率も落ちてきます。また一度減った顎の骨は戻らないため、入れ歯やインプラントを入れるのも場合によっては難しくなります。若い頃は歯を失ってもそこまで深刻に考えないかもしれませんが、高齢者になると栄養が取れないことが体の衰え、つまり要介護の一歩手前の状態につながるため、1本でも多く歯を残したいところです。

 もっと歯を大切にしておけばよかったー歯を失った方は必ずこのようにおっしゃいます。虫歯や歯周病は安静にしていれば治るものではありません。大事に至る前に、ぜひ治療を。

◆中塚美智子 大阪歯科大学医療保健学部准教授。歯科医師、労働衛生コンサルタント、1級キャリアコンサルティング技能士。

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