エナジードリンク過剰摂取の危険性 「疲労」の減少ではなく「疲労感」の減少に過ぎない 現役医師が解説
最近SNSで「エナジードリンク」が「元気の前借り」とか「命の前借り」などと表現されているようです。うちの息子も大好きな、即効性があるとされるエナジードリンク。皆さんも飲まれた経験はおありでしょう。しかしエナジードリンクを飲みすぎた人が心不全で突然死するなどの健康被害が海外で続々と報告されています。いったいエナジードリンクとは何なんでしょう。
エナジードリンクにはさまざまな抗酸化成分が含まれています。抗酸化成分とは、酸化ストレスを抑制してくれる物質です。そして数ある酸化ストレスのひとつに、疲労の元である「eIF2αのリン酸化」の誘導があります。エナジードリンクに入っている抗酸化成分は、このeIF2αリン酸化を抑制しているのではないかとされてきましたが、世界的権威をもつ研究機関から、ある事実が発表されました。
疲労のメカニズムは複雑ですが、「疲労感」の元となる炎症性サイトカインは、肝臓で最も多く産生されます。一方、エナジードリンクに含まれる抗酸化剤の一種である「N-アセチルシステイン(NAC)」は、肝臓でのeIF2αリン酸化を抑制し、炎症性サイトカインの産生を低下させます。これがエナジードリンクを飲むことで「疲労感」が減少する理屈です。
ところが最新の研究で、NACの作用で確かに肝臓のeIF2αリン酸化は抑制されるものの、心臓・脳・筋肉など、他の臓器のeIF2αリン酸化は全く抑制されないことが判りました。つまり肝臓で産生される疲労感の元となる炎症性サイトカインは減少するため、脳は「疲れていない」と誤解して身体に休めという命令を送らないのです。このため身体を酷使して、肝臓以外の臓器では過剰なeIF2αリン酸化が生じ、組織の障害や挙句に突然死を招くこともあるのです。
エナジードリンクによって「疲れがとれたような気がする」というのは、実は「疲労」の減少ではなく「疲労感」の減少に過ぎません。飲むなとは言いませんが、飲み過ぎにはどうかご注意ください。
◆松本浩彦(まつもと・ひろひこ)芦屋市・松本クリニック院長。内科・外科をはじめ「ホーム・ドクター」家庭の総合医を実践している。同志社大学客員教授、日本臍帯プラセンタ学会会長。