今さら発見された…亡き父が壁に残した「遺言」に家族困惑、すでに遺産分割後「どう扱うべき?」【行政書士が解説】
1年前に父が亡くなったAさんとその家族は、父の1周忌法要のために実家に集まりました。Aさんの父親は4年前に大病を患い、昨年、家族に見守られながら亡くなったのです。法要が終わり、家族は父が生前過ごしていた部屋に集まり、部屋の片づけを始めます。
生前の父親は片付けが苦手だったこともあり、働いていた頃の書類や趣味で集めた雑誌が雑多に積まれていました。みんなで黙々と作業を進める中、本棚の整理を担当していたAさんは、本棚の後ろの壁に何か文字が書かれていることに気づきます。不思議に思ったAさんは本棚を移動させて壁を見てみると、そこには父の筆跡で遺言らしき文章が書かれていたのです。
驚いたAさんは家族を呼び、全員でこの遺言を読み進めたところ、そこには財産の分配方法や家族への思いが細かく記されています。しかしAさんたち家族は、父が亡くなった時に遺言がなかったとして遺産分割を済ませていました。
しかも壁に書かれた遺言には、財産について家族が合意した分割方法とは大きく異なった内容が記されています。もしこの遺言が有効だとすれば、再度遺産分割をやり直す必要があるかもしれません。果たして「壁に書かれた遺言書」は有効なのでしょうか。北摂パートナーズ行政書士事務所の松尾武将さんに聞きました。
ー「壁に書かれた遺言書」は有効なのでしょうか。
この事案のような経験はないので、以下は私見として捉えていただければ幸いです。
まず、壁に書かれた遺言書が自筆遺言書として有効とされるためには、いくつかの要件を満たす必要があります。それは「全文自書であること」「作成日が書かれていること」「氏名の自書、押印がなされていること」です。
民法上、どういうものに書いたのか、どういうもので書いたのかは問われていないため、これらの要件を満たせば法的には事案の遺言も有効ではないかと考えます。
とはいえ、遺言執行の段階で問題が出るでしょう。遺言執行の準備段階では家庭裁判所での検認手続きが必要になりますが、この検認を経ないと執行手続きが出来ません。家事事件手続法や家事事件規則の規定に沿うと検認はなされうると考えますが、できるかどうかの見解は分かれるのではないかと思います。
仮に検認がなされたとしても、この遺言にもとづき法務局や金融機関が手続きに応じてくれるか疑問が残るところです。こちらも、少なくとも見解が分かれることになると思います。
ー遺産分割はどうなりますか。
遺言書が有効なのであれば、既に成立した遺産分割協議は無効となるのが原則です。一定期間経てば、遺言書が無効となるわけではないので、いつ見つかったとしても有効なものとして扱われます。
ただし、遺言内の当事者が相続人のみであり、遺言執行者が指定されていなければ、相続人全員がその遺言内容を承知・同意のもと、この遺産分割協議も有効と解されています。今回の場合、壁に書かれた遺言書が有効であったとしても、一定の条件下で相続人全員の合意があれば、遺産分割のやり直しは不要であると考えます。
本事案は極端な例ですが、実際に遺言自体が有効であっても、実際の執行の場面では手続きに支障がある遺言が散見されます。遺言書を作ることは第一ですが、次は実際に相続が発生した場合に手続き上支障がない遺言であるかの検討が必要と考えます。
◆松尾武将(まつお・たけまさ)/行政書士 大阪府茨木市にて開業。前職の信託銀行員時代に1,000件以上の遺言・相続手続きを担当し、3,000件以上の相談に携わる。2022年に北摂パートナーズ事務所を開所し、相続手続き、遺言支援、ペットの相続問題に携わるとともに、同じ道を目指す行政書士の指導にも尽力している。
◆八幡 愛 1987年7月兵庫県生まれ。グラビアアイドルを経て、タレントとして活動。2011年の東日本大震災、福島第一原子力発電所の事故を機に社会問題や政治に関心を持ち、市民メディアのリポーターとして取材を始める。2019年、早稲田大学人間科学部eスクールに入学。2021年の衆議院選挙で「れいわ新選組」から比例近畿ブロックに立候補。
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