藤井寺に住み半世紀 元近鉄4番の今 漁師とのけんかや名将にブチ切れた伝説 栗橋茂さんはカウンター越しに語る
大阪南部の藤井寺市は、長きにわたり近鉄バファローズの本拠地があった。
和製ヘラクレスと呼ばれた近鉄の元4番・栗橋茂さんは、今も藤井寺駅近くでスナック「しゃむすん」を一人で切り盛りしている。
現役時代の1988年11月にオーナーとして開店し、35年目を迎える。
東京出身、帝京商工から駒大を経て73年度ドラフト1位で今はなき近鉄に入団。以降50年近くも藤井寺に住み続けている。
近鉄が2004年限りでオリックスに吸収合併され、球場も06年に取り壊された。それでも藤井寺に住む。
「行くところがないし、食べていかないといけないから」
昨年の日本シリーズでオリックスがヤクルトを破り、バファローズとして初の日本一になった。
「若い人がどういうか分からないけど、オリックスは関係ない。オレらにとっては阪急だから。近鉄がなくなって球場にも行っていない」
近鉄が連覇した79、80年にはクリーンアップを務め、16年の現役生活で通算1301安打、215本塁打を放ち3度の優勝を経験した。
連覇の際には、今でいうオリックスを連覇に導いた吉田正尚(レッドソックス)のような存在だった。
「吉田とは環境が違うよ。オレも結婚して球場からまっすぐ家に帰っていたらもう20本くらいホームランを打てたかも。あとウエートトレーニングだな。オレらのころは西本(幸雄)監督(故人)に怒られないようにサボりながらトレーニングをしていただけ。マシンを使って鍛えていたらもう少し長く現役を続けていたかな」
柔和な笑みを浮かべる元近鉄のスターは今、ネット界で栗橋伝説として数々のエピソードが語られている。
「カネ(金村義明さん)がYouTubeとかでいろいろしゃべるから話が本当か確かめに来たりね。この前はカナダ在住の人も来たよ」
現役時代を知らないファンも強烈な栗橋伝説に引かれお店を訪れる。
中学2年から高校卒業までの5年間「そんなに裕福ではなかったから」とヤクルトを配達していた。
帝京商工では「品のいい学校ではなかった。高校時代はヤクルト配って野球してなぐられての生活だった」と振り返った。
卒業後は社会人野球に進む予定だったが、監督の勧めで駒大の練習に参加した。
入学前で合宿の2階にあるお客さん部屋の布団に入っていると「ハイ、バーン、ハイ、バーン」と返事となぐられる音が聞こえてきたという。
「もうなぐられるのは嫌だ」
社会人に進むことを希望したが、監督の意に反することができず駒大に進学した。
当時は当たり前だった体罰にも耐えて育った。ただ、それだけではない。
優しい顔をして接客する栗橋さんだが、カウンターの向こうで「カッとなったら止まらないんだよね」と自らの性格を分析した。
曲がったことが大嫌い。年上でも関係ない。プロ入り後の武勇伝は、うそのような本当の話が続々と出てくる。
朝帰りは日常茶飯事、キャンプ中に漁師とけんかしたこともある。
後輩をかばおうとして大立ち回り。宿舎まで漁師が乗り込んできた。逸話としては朝の体操に漁師が来たことになっているが「夜中に宿舎に来たみたい。オレはもう寝ていたからフロントの人が対応してくれたみたいだよ」と真相を明かした。
納会で先輩に腹を立てガラスの灰皿を何度もなぐり手が血だらけになったこともある。
今では笑って話せるが、思い出しただけでも背筋が凍るできごともあった。
名将・西本監督にキレた一件だ。
走塁を巡って「手抜きしただろ」と怒られ「してません」と何度も繰り返した。最後は「してねえって言ってるだろ」とブチ切れてしまった。
試合後に日生球場の照明が消えた一塁側ベンチに一人座って逡巡し、意を決して監督室をノックした。
「コーチとかもいてよく見えなかったが、手を上げてくれたようにも見えた」
許されたかどうか分からないまま翌日を迎えた。球場の狭い通路で西本監督とすれ違った。
「ケツをポンとたたかれたんだ。あれには救われた」
数ある修羅場をくぐり抜けた主砲も名将の気づかいにホッと胸をなでおろした。
キレても「その時だけ。後はなにもない」と根に持つことはない。
選手時代から一匹おおかみを貫く71歳、独身。ただ、陰ひなたがなく今も梨田昌孝さんをはじめ後輩が店を訪れる。
半世紀近く関西に住みながら標準語をしゃべり、携帯電話も持たない。
「ここまできたら携帯も持たずにいこうかな」
昭和の薫りがぷんぷんする“漢(おとこ)”の魅力が藤井寺にある。
(デイリースポーツ・岩本 隆)
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