【野球】W杯6連覇へ「マドンナジャパン」の新たな試み
その勝利の一つ一つが、女子野球の未来を照らす光となる。香港で開催された「第1回BFA女子野球アジアカップ」に臨んだ侍ジャパン女子代表「マドンナジャパン」が、全勝で初代アジアチャンピオンに輝いた。
新たに始まった今大会では、未来を見据えた初めての試みを見せている。それが18歳以下という若い選手たちでのチーム構成だ。
女性初の代表監督となった橘田恵監督(34)は、大会前に都内で行われた会見で「若い世代の競技力向上と、小中学生、そして高校生、大学生の競技人口も増えてきている中で『私もあのユニホームを着たい』と思われるようにしたい」と、その意義を説明した。
W杯で5連覇中の「マドンナジャパン」。世界で圧倒的な強さを誇っている中で、来年18年には6連覇を懸けたW杯を控えている。
日本野球機構(NPB)の事務局長も務めた全日本女子野球連盟の長谷川一雄会長は「今年3月に招待された香港でのフェニックス杯では、初めて中学生チームを送り出して優勝しました。これはわれわれにも良い経験になった。この女子中高生に国際経験を積んでもらいたいというのが目的です」と中長期的な視野に立っての代表強化案を語った。
強い代表で有り続けること-。これは女子野球を取り巻く環境では大きな使命となる。野球日本代表「侍ジャパン」では稲葉篤紀監督が就任し、20年東京五輪への歩みが始まった。ただ五輪での女子競技はソフトボールであり、女子野球は五輪という舞台を目指すことができない難しい状況に置かれている。
だからこそ長谷川会長は「W杯で連覇を続けることが、彼女たち若い世代の目標になる」と力を込める。それは悲愴(ひそう)感の漂う話ではない。これまでの活動を通し、女子野球の未来に手応えを感じている証だ。
例えば中学生の女子選手では各地のボーイズリーグやリトルシニアに所属しているが、男子との体力に差が出てくることなどから試合出場が減り、結果、ソフトボールやハンドボールに転向していく傾向があった。
そこで連盟では3年前に全国女子中学生硬式野球選手権大会を新設。連盟傘下の女子中学生のクラブチームに加え、昨年からはボーイズやリトルシニアに所属する女子選手も地域別に混成チームを組んで参加するなどの広がりを見せている。
高校の女子野球部に至っては20年ほど前には3、4チームしかなかったが「現在では25チーム。来年は新たに計画段階も含めて4チーム増える予定です」と長谷川会長。男子では小中学生の野球の競技人口が減少する中、女子の競技人口は着実に数を伸ばしている。
さらに昨年は警備会社・ゼンコーサービス、今年は介護会社・ハナマウイが女子野球部を設立。進学をしなかった選手や元プロの選手の受け皿となる企業チームは、日中に働きながら野球を続けていけるという競技の可能性を広げるだろう。
課題は資金面だ。「われわれの組織は財政的に脆弱(ぜいじゃく)。補助金や協賛金を出していただけなければ大会も開催できない」という。それでも長谷川会長は「若い世代のためにもわれわれがモチベーションを保つこと。弱小な連盟だが、何とか子供たちのために大会を続けていきたい」と語り、競技として参加できない東京五輪にも、エキシビションとして女子野球が関われるような働き掛けを続けている。
会見に出席した小野あゆみ内野手(17)は、中学時代にハンドボールのU-16日本代表に選ばれた。ハンドボールで東京五輪を目指す道もあったが「小さい頃から野球の日本代表になるのが夢で、ハンドボールで代表になったときも野球をあきらめきれなかった」と周囲の反対を押し切り野球の道へと戻った。
そして会見に出席した選手全員が「代表のユニホームを着ることが夢だった」と思いを口にした。強く有り続ける「マドンナジャパン」の歩みは、着実に女子選手のあこがれとして輝きを増している。その女子野球こそが、これからの野球振興への鍵となっていくのかもしれない。(デイリースポーツ・中田康博)
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