「史上最悪の助っ人」から得た教訓とは 活躍のカギを握る「通訳」という仕事 往年の名通訳が遺した一冊

 ヤクルト時代のホーナー
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 春季キャンプが目前に迫り、外国人選手が続々と来日している。筆者が応援している阪神タイガースでは新助っ人が5選手。最近の事情は分からないけれど、一昔前まで彼らのような“新米”はロバート・ホワイティング氏の傑作である「You Gotta Have Wa」 (和訳=和をもって日本となす)が必読書だった。日本についての知識がない彼らにとって役立つ情報が満載。日本野球のバイブルと言っても過言ではない。

 本の中で当時ヤクルトスワローズに在籍していたレオン・リー選手は“後輩”の新助っ人にこう忠告している。「通訳を大事にしろ。通訳といい関係を築くことが、日本で成功する鍵を八割方握っている」。ということは通訳はファンが思っている以上に大きな役割を果たしていることになる。ならば、通訳にも“バイブル”的な書籍があればいいのでは?

 実は1年前、そんな書籍を見つけました。南海、ヤクルト、巨人で通訳や国際スカウトとして活躍した中島国章氏による「プロ野球通訳奮闘記」(1994年)です。ネット通販で検索したところ、発売時の定価1200円ながらサイト価格は驚愕の41万6600円!さすがに購入できず「欲しい物リスト」に追加しました。あきらめきれずに時折値段チェックしていると、昨年9月に定価に近い値段での出品を発見。即購入し、一気に読み終えた。面白い話ばっかりで、これはホワイティング氏の本に匹敵するぐらい必要不可欠だなぁと思った。ネタバレはしたくないけれど、いくつかの良いところを紹介するね。

 イタリア人の父と日本人の母の間に誕生した著者は、南海ホークスの臨時通訳として球界でのキャリアをスタートさせた。選手からイタリア名の「ルイジ」と呼ばれた同氏は、その後ヤクルトスワローズに移籍。そこでの最初の相棒が「史上最悪の助っ人」と呼ばれるジョー・ペピトーンだった。

 同選手から学んだことは「選手と日本球団との間に存在するコミュニケーションギャップを埋める大切さ」だった。メジャーリーガーとしての扱いを期待していたペピトーンは、要求に応じない球団を見下し、不従順な態度を取った。一方、球団はペピトーンの精神状態や背後に存在する米球界の文化を考慮できなかった。ルイジは両方の立場を理解した上で分かりやすく説明し、納得させるのに苦労したという。

 次に鳴り物入りで入団したのはチャーリー・マニエル。彼は首脳陣と親しい関係を築くため、監督やコーチを下の名前で呼んでいた。それが当時の日本では文化のタブーだということ、監督のメンツを潰すような行為だったことに気づかなかった。また門限を破ることも度々あり、選手だけでなく通訳にまで罰金が課せられたこともあったそうだ。

 そんなマニエルから得た教訓も多かった。日米の習慣の違いを一つ一つ納得いくまで説明しなくてはならないこと。そしてトラブル時の対応方法だ。例えば言い争いの場で、どこまで忠実に正確に通訳すればいいのか。気を遣って“柔らかく”通訳しすぎると「感情的になっても通訳がその場を和ませてくれる」という甘えにつながり、結果的に両者の距離が遠くなるという。

 3人目はボブ・ホーナーだ。バリバリのメジャーリーガーだった彼は来日してすぐにホームランを量産。一挙手一投足が注目を集め、プライバシーを確保することも困難になった。そんな状況下で同選手は、私生活でも通訳に頼りっぱなし。中島氏は「それも通訳の仕事」と痛感したそうだ。加えて、慣れない日本で生活する夫人に対しても全力サポート。家族のケアも通訳の重要な仕事だと感じるようになったという。

 本の最後には、出版当時のヤクルト監督だった野村克也氏からの言葉も添えられている。

 「我々は1試合1試合の勝負にかけているのだから 通訳にもそのつもりで参加してもらっています。通訳に対してナインと同じくらい厳しく接しているのもそのためです。戦う集団の一人として見ていることをくれぐれも忘れないで欲しいと願っています」

 筆者もまさにその通りだと思う。今年の阪神タイガースの通訳も責任重大な仕事が求められています。外国人選手9人のうち、7人は1軍未経験。まだ日本野球、日本社会に慣れていない。通訳の方々が活躍の鍵を握っていると言っても過言ではない。だからこそ裏方さんにも一生懸命に声援を送りたい。

 ◆トレバー・レイチュラ 1975年6月生まれ。カナダ・マニトバ州出身。関西の大学で英語講師を務める。1998年に初来日、沖縄に11年在住、北海道に1年在住した。兵庫には2011年から在住。阪神ファンが高じて、英語サイト「Hanshin Tigers English News」で阪神情報を配信中。

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