イソップ後編 生きる希望を見せた賢治
イソップ役の高野浩和さんは決して器用な男じゃない。自分の持ち味、人生観で勝負するような。入ってきた時はすごく不安だったらしいんですよ。演技の経験もあまりないし。その不安感と緊張感が、いい感じで出てくれたんじゃないか。
チャラチャラしてなかったですからね。いつもマジメで、物静かで、理性的で。内面に強さを秘めているんだけど、あまり表に出さない。普段からそういうタイプでしたから、役柄が見事にはまったような気がしますね。
第12回「愛は死線を越えて」は、第二の見せ場かもしれません。
イソップは自殺を考えるんですよね。脳腫瘍で死期が迫っているという残酷な現実を突きつけられて、自暴自棄になって。どうしたらいいかわからなくなった時、賢治に「人間はだれでも死ぬんだ。残された時間を燃焼しろ。そこにお前の命の輝きがあるんだ」と言われます。
「ボールがこの線の内側にある時、ボールは生きてるな、つまり生の世界だ。こっち側は死の世界だ。死ぬってのはな、ボールがこう、この線を越えるような、ほんのわずかな間のことだ」-ラグビーとうまく重ね合わせて、大原清秀さん(※)が脚本を書いてくださったんですよね。これがおそらく大映テレビで今までやって来たドラマの作り方っていうか。僕もあのシーンが大好きで、セリフもパッと入りましたし。
死を目前にした高校生が、生きるってことに対してどうしたらいいかわからなくなっている状況を、賢治が冷静に受け止める。本当は賢治も一緒になって慰めて、泣いてあげたい気持ちでいっぱいだったんだろうけど、それが励ますことじゃないなって。力強く、最後まであきらめずに頑張るんだ、そこに命の輝きがあるんだぞって。自分にもそう言い聞かせながら演じていたような気がします。
自分がそういう状況になっても、やっぱりそういうふうに思わないと、残りの時間を生きていけないだろうなって。人生っていうのは、前向きに思わないとつらすぎる。希望っていうか、光っていうか、そういうものをイソップに見せてあげたのが賢治だと思うんです。
※「ポニーテールはふり向かない」など、大映ドラマのエース脚本家。